「the deadline」現代でも通じるプロジェクト管理の物語
この本を読み終えて、いや読み進めていく中で「この本が1999年に出ていたのか…」と圧倒された。そして、1999年の良書に書かれている内容で知らないことが多くあったことに悔しさ、というか「もっと先に知りたかった」という気持ちが常にあった
この話は組織の心理的安全性に始まり、採用・登用するときのプラクティス・プロジェクトで何を管理するかの提言・人月の神話が起こる理由の解明・残業やプレッシャーの無意味さ・プランニングポーカーのようなタスクのポイント化・設計の重要性・MTGの無くし方、最後に「プロジェクトにおいての目標と予想」が語られて終わる。
スクラムなどで用いられるタスクのポイント化、GoやTypescriptで取り入れられている型、最近ではMTGの減らし方についてShopify CEOが語っていたことも形は違うが、この書籍で語られている。
この本には101もの項目が書かれている。個人的に好きな話・気になった項目をいくつか書いていく。
プロジェクトの成功の評価は、プロジェクトの出来だけではない
この本で最も好きな学びが「プロジェクトが成功することの価値は、良いチームができることである」ということだ。
もちろん、良いチームにならずプロジェクトが成功することもある。そのため「開発したソフトの出来だけで評価されるのではなく、次のプロジェクトもやりたいという結束した良いチームが少なくとも1つできたかどうかも評価されるべきだ」と語られている。
実際に同じメンバーで複数のプロジェクトを合計2年したことがあるが、1つ目のプロジェクトが成功した時点で「この人はこういうことを考えているだろう」「この人にはこういうことを言う方がやる気が出るだろう」「ここはこの人に任せて大丈夫」など信頼し、2つ目の大きなプロジェクトでは1つ面のプロジェクトより更に真っ向から話し合いプロジェクトを成功させることができた。
ただ、当時の私はそれを「団結力があがった。理解できるようになってきたな」くらいで捉え、そこまで大きな価値があるものだと思っていなかった。
普段ふりかえりを実施したりチーム作りをすることが多いが「プロジェクトでは進捗だけでなく、チームを作るためにも行動すべきだ」と改めて理解することができたのは大きな収穫だった。
怒りとは不安の表れである
不安な時、人はそのストレスを解放しようとする。その解放で、最も現れやすいのが「怒り」と言われている。だからこそ、怒っている人の不安を解消するのは大きな価値があるというのだ。
確かに怒られる時と言うのは大抵「炎上プロジェクト」と呼ばれるような無理難題が降ってきたときだったなと今になって思う。
個人的にはエンジニアは感情を殺すのがうまいため「怒り」と言う形でさえ出てくることが少ない気がしている。そのため、怒っていれば本当にサポートが必要な場面なのだろう。
優れたプロジェクトは、設計に費やす時間の割合がはるかに高い
これは現代のアジャイル的なモノづくりとは異なるところ。
コーディングをできる限り遅らせ、プロジェクトの中間の40%かそれ以上をかけ完璧にコードと対応できるような低レベルの詳細設計まで入念に行うと言うのだ。
また、テストが行われれば、ほとんどのテストがパスされる。そのレベルの設計をするというのだ。これは「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」の理念に反するところではある。
ただ、何らかの方法でこの考えを現代のスクラムにも持ち込めないかと考えている。
正直技術力が高くないと思っているので、納得のいく答えはまだ出ていない。
「バグというのはコードの中心ではなく、末端にある。すなわちインターフェースの境目にあることが多い」という台詞は現代にも通じるところがある。DIを用いることでインターフェースという境界を明らかにしつつ、バグが少ないとされるコア部分はある程度柔軟な設計をおこなうことができるだろう。
また、「コーディングしながら設計をしてはいけない」というセリフもモブやペアプロで最初に話し合い設計を行うなどで対応できるだろう。
ただ、もっと良い方法があると思っているので今後考えて行きたいと思う。
総括
発売は1990年と古いが、現代にも続くさまざまなプロジェクト管理の問題を紐解いている。
TDDやアジャイルなど開発サイクルとは一致しないところはあるものの、全体感を見ていく上では非常に有意義な本だと感じた。実際、「人を増やして開発速度を増やせ」と上から言われている人に「この本の10章を読んで伝えたら?」非常に感謝された。それほどまでに、この本は現代でも通じることがわかりやすく記載されている。
かなり書いたはずなのに、まだ90以上の項目がこの本に残っているというのが恐ろしい…
本のストーリーも「ほぼ嵌められて大企業のプロジェクト管理をさせられる様になった人間が頑張る話」と少し異世界転生のような雰囲気を醸し出しており、気軽に読めるのも魅力なところだ。